笑う屍体 -その弐-
11月も下旬だというのに、汗でべっとりと背中が湿る、気持ちの悪い嫌ぁ〜な感触。
「七曜ぅ〜〜助けてってばぁ〜〜」
かわいこぶってぐずってみたが、所詮、相手は二千年ものの妖狐。
「泣き落としは通用せんぞ」
しらけきった顔つきでずばりと一刀両断される。
「おまえはまた面倒ごとを持ち帰ってきおって」
あれ??
むしろ・・・・・。
このままお説教モード突入ですか(`L_` ;)イヤン
「・・・・七曜さん?」
機嫌を窺いながら、おずおずと遠慮がちに口を開きかけた俺を、冷ややかに睨めつけ一蹴すると、七曜は重々しい溜息を覆い隠すように、懐から取り出した金の扇をぱらりと広げた。
水鳥の羽みたいにしなやかな四尾が彼の背後でゆらゆら踊っている。
紅く隈取された双眸からは明らかに「面倒臭ぇ・・・・・」オーラが漂っていた。
マズイ・・・・・。
危機感にかられ強張る表情筋。
ごくりと、唾液を飲み込んだ。
いくらなんでもこのまま放置プレイを喰らうことはないだろう・・・・・そんな甘ったれた考えは年齢が二ケタにも達しないうちから古くなったお守りと一緒にお焚きあげしてもらった。
だって、俺はこいつに幾度となく・・・・・・見捨てられている!
そりゃあもうこっぴどく!
神様のお使いってさ、なんてゆーの?
聞いただけで【天使】とか【天女】とか、ああいう神々しくて、優しそうなインスピレーションを受けないか?
宗教のしがらみなんてちっとも理解できない、ほとんどの知識は絵本とテレビ(主に教育番組)で形成されている夢見がちな餓鬼んちょはてっきりお情け深いものだと思うじゃない。
カミサマノオツカイ=困ったときに助けてくれるヒーロー・・・・・みたいな。
信じきっていた俺はド吃驚したね!
岸辺露●よろしく「だが、断る!」って突っぱねられた日にゃあ、いたいけなお子様は目が点ですよ、奥さん!
イメージ総崩れ。
まぁ、そうやって突き放されるケースだと大抵とり憑いているヤツも自然と離れていく雑魚(失礼!)らしくって、
数日もすれば嘘みたいにケロリと体調も治っちゃうんだけどさ。
だったら何をそんなに懸命に頼み込む必要があるんだって思うだろ?
それがおおありなんだ。
なにせ、その僅かな数日間がはちゃめちゃに怖い!
例えば、一個だけ実例をあげるとすると・・・・・こんなかんじ。
憑き物宣告をされた後、ビビリの俺は本当ならスルーしたい風呂に浸かりながら、少しでも怖さを紛らわすためにドリフとか、いかにも楽しげな歌を口ずさんで明るい雰囲気づくりに心血注いじゃうだろ。
極力まわりは見ないようにしてやることさっさとやっちゃおうって・・・・・そういう心境だったのに、自分が生み出した空騒ぎに妙に勇気づけられちゃって、
いつしか天井にびっしりはりついていた雫がひとつ、ふたつ、滴り落ちるのを目で追うほどの余裕をぶっこきだす始末。
俯いてみると、母さんが草津旅行の土産に買ってきた「湯の花」で白濁したお湯が静かに波打っていて、
ぼやけた自分の顔が映っている。
色のついたお湯は珍しくて面白い。なんでも玩具にできちゃうお年頃だった俺が遊び始めてしまうのは時間の問題だった。
掌で掬うと薄くなる乳白色の不思議な水は毎日あるわけじゃない。
なんてことない入浴剤の使用が、幼児にとっちゃちょっとしたイベントたりえた。
でも・・・・・長い間そうやって楽しんでいるうちに、あることに気づいてしまう。
浴槽に揺蕩う影の朧気だった輪郭が少しずつくっきりと浮かび上がってくる、常軌を逸した現象に。
まるで曇った鏡が磨かれていくように鮮明さを帯びはじめる水中の自分。
口のあたりが笑っているように見えるのは気のせい?
髪が・・・・・長いように見えるのは、気のせい?
すごく、怖い顔をしているように見るのは、気のせい??
俺のものだと思っていた虚像は徐々にそうでない部分を顕著にしてゆく。
違うのだと、悟った瞬間の恐怖といったらない。
人は本当に怖いと、声がでなくなるものなんだって、その時はじめて知った。
金縛りにあったみたいに身動きひとつできなくって、じっと息を殺しながら、食い入るようにお湯を見つめていた。
視線を逸らしたり、わあって叫んだりしたら、その途端、お風呂の中に引きずり込まれてしまう気がして・・・・・。
どうしたらいいのか、何も考えられない。頭のてっぺんから冷水をぶっかけられたみたいに、火照った身体が一瞬にして凍りつく。
黒々と、どじょうめいてうねる髪の毛が見え隠れし、立体感を帯びた女だか男だかよくわからない顔がゆっくりと時間をかけて露になっていく。
鼻の奥をツンとつく、いやな異臭が目に染みた。
永遠に続くかと思われた無言の睨み合いは、バチンとブレーカーが落ちるような音の後に襲ってきた凶悪極まる暗闇によって、ピリオドが打たれた。
おそらく、ただの停電ではないと思う。
恐怖ゲージがMAXに到達したのか、そっから先の記憶はない。
気づいたら、きちんとパジャマを着せられて、まっさらなシーツのうえに寝かされていた。
「のぼせるまで入ってるんじゃないわよ、もう」
やけにプリプリしている母親と皺だらけの顔に苦笑を浮かべながら、「大丈夫だよ」と、優しく頭を撫でてくれるじっちゃんを見比べて・・・・・その頃十歳にも満たなかった俺はわけもわからずわんわん泣いた。
俺にはそういう経験が五万とある。
語ったらキリがないぞ!・・・・・って、いや、自慢げにひけらかすことでもないけどNE☆
兎にも角にも、なんとしてもここで見捨てられちゃあなんないワケ。
平和な暮らしがかかっていれば普段は学生という肩書きに護られたニートな俺も必死になる。
「祓ってくれたらお礼に油揚げ買ってくるから!!」
冷え切った縁側に正座して(丁寧に脱いだ靴まで揃えて)しっかり居住まい正し限りなく土下座に近い体勢で拝みこんだ。
じっちゃん曰く俺は霊感が強いそうだが、ただ視えるだけでなんの力も有しちゃいないのだ!えっへん!!
「油揚げとな??」
ぴくり、と、七曜の耳が引き攣るように動くのを見逃さなかった。
涼しげなマスクに過ぎる甘い誘惑への嘱望。
ここは畳み掛けるように打つべし!打つべし!
「スーパーで売ってるやつじゃないぞっ!豆腐屋で売られてるちゃんとしたやつだ!」
べつにスーパーの棚に陳列されている油揚げがちゃんとしてないなんて言うつもりじゃないけど、
少しでも彼のお気に召すような条件を叩き込んだ。
ちっちゃな子供には使うことが許されなかった最終奥義。
幸いまだ俺の財布には諭吉様という心強いスポンサーが控えていらっしゃる!!
七曜は思案げに細い眉を顰めると、「ううむ」とか「はてさて・・・・・」とか、扇の下でぶつぶつと独り言を繰り返している。
それを俺は祈るような気持ちで見守った。
答えは当然、「YES」であるべきだっ!
・・・・・というか、そうしてくれないと、この物語すすまないぜ☆
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「七曜ぅ〜〜助けてってばぁ〜〜」
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「おまえはまた面倒ごとを持ち帰ってきおって」
あれ??
むしろ・・・・・。
このままお説教モード突入ですか(`L_` ;)イヤン
「・・・・七曜さん?」
機嫌を窺いながら、おずおずと遠慮がちに口を開きかけた俺を、冷ややかに睨めつけ一蹴すると、七曜は重々しい溜息を覆い隠すように、懐から取り出した金の扇をぱらりと広げた。
水鳥の羽みたいにしなやかな四尾が彼の背後でゆらゆら踊っている。
紅く隈取された双眸からは明らかに「面倒臭ぇ・・・・・」オーラが漂っていた。
マズイ・・・・・。
危機感にかられ強張る表情筋。
ごくりと、唾液を飲み込んだ。
いくらなんでもこのまま放置プレイを喰らうことはないだろう・・・・・そんな甘ったれた考えは年齢が二ケタにも達しないうちから古くなったお守りと一緒にお焚きあげしてもらった。
だって、俺はこいつに幾度となく・・・・・・見捨てられている!
そりゃあもうこっぴどく!
神様のお使いってさ、なんてゆーの?
聞いただけで【天使】とか【天女】とか、ああいう神々しくて、優しそうなインスピレーションを受けないか?
宗教のしがらみなんてちっとも理解できない、ほとんどの知識は絵本とテレビ(主に教育番組)で形成されている夢見がちな餓鬼んちょはてっきりお情け深いものだと思うじゃない。
カミサマノオツカイ=困ったときに助けてくれるヒーロー・・・・・みたいな。
信じきっていた俺はド吃驚したね!
岸辺露●よろしく「だが、断る!」って突っぱねられた日にゃあ、いたいけなお子様は目が点ですよ、奥さん!
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まぁ、そうやって突き放されるケースだと大抵とり憑いているヤツも自然と離れていく雑魚(失礼!)らしくって、
数日もすれば嘘みたいにケロリと体調も治っちゃうんだけどさ。
だったら何をそんなに懸命に頼み込む必要があるんだって思うだろ?
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なにせ、その僅かな数日間がはちゃめちゃに怖い!
例えば、一個だけ実例をあげるとすると・・・・・こんなかんじ。
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極力まわりは見ないようにしてやることさっさとやっちゃおうって・・・・・そういう心境だったのに、自分が生み出した空騒ぎに妙に勇気づけられちゃって、
いつしか天井にびっしりはりついていた雫がひとつ、ふたつ、滴り落ちるのを目で追うほどの余裕をぶっこきだす始末。
俯いてみると、母さんが草津旅行の土産に買ってきた「湯の花」で白濁したお湯が静かに波打っていて、
ぼやけた自分の顔が映っている。
色のついたお湯は珍しくて面白い。なんでも玩具にできちゃうお年頃だった俺が遊び始めてしまうのは時間の問題だった。
掌で掬うと薄くなる乳白色の不思議な水は毎日あるわけじゃない。
なんてことない入浴剤の使用が、幼児にとっちゃちょっとしたイベントたりえた。
でも・・・・・長い間そうやって楽しんでいるうちに、あることに気づいてしまう。
浴槽に揺蕩う影の朧気だった輪郭が少しずつくっきりと浮かび上がってくる、常軌を逸した現象に。
まるで曇った鏡が磨かれていくように鮮明さを帯びはじめる水中の自分。
口のあたりが笑っているように見えるのは気のせい?
髪が・・・・・長いように見えるのは、気のせい?
すごく、怖い顔をしているように見るのは、気のせい??
俺のものだと思っていた虚像は徐々にそうでない部分を顕著にしてゆく。
違うのだと、悟った瞬間の恐怖といったらない。
人は本当に怖いと、声がでなくなるものなんだって、その時はじめて知った。
金縛りにあったみたいに身動きひとつできなくって、じっと息を殺しながら、食い入るようにお湯を見つめていた。
視線を逸らしたり、わあって叫んだりしたら、その途端、お風呂の中に引きずり込まれてしまう気がして・・・・・。
どうしたらいいのか、何も考えられない。頭のてっぺんから冷水をぶっかけられたみたいに、火照った身体が一瞬にして凍りつく。
黒々と、どじょうめいてうねる髪の毛が見え隠れし、立体感を帯びた女だか男だかよくわからない顔がゆっくりと時間をかけて露になっていく。
鼻の奥をツンとつく、いやな異臭が目に染みた。
永遠に続くかと思われた無言の睨み合いは、バチンとブレーカーが落ちるような音の後に襲ってきた凶悪極まる暗闇によって、ピリオドが打たれた。
おそらく、ただの停電ではないと思う。
恐怖ゲージがMAXに到達したのか、そっから先の記憶はない。
気づいたら、きちんとパジャマを着せられて、まっさらなシーツのうえに寝かされていた。
「のぼせるまで入ってるんじゃないわよ、もう」
やけにプリプリしている母親と皺だらけの顔に苦笑を浮かべながら、「大丈夫だよ」と、優しく頭を撫でてくれるじっちゃんを見比べて・・・・・その頃十歳にも満たなかった俺はわけもわからずわんわん泣いた。
俺にはそういう経験が五万とある。
語ったらキリがないぞ!・・・・・って、いや、自慢げにひけらかすことでもないけどNE☆
兎にも角にも、なんとしてもここで見捨てられちゃあなんないワケ。
平和な暮らしがかかっていれば普段は学生という肩書きに護られたニートな俺も必死になる。
「祓ってくれたらお礼に油揚げ買ってくるから!!」
冷え切った縁側に正座して(丁寧に脱いだ靴まで揃えて)しっかり居住まい正し限りなく土下座に近い体勢で拝みこんだ。
じっちゃん曰く俺は霊感が強いそうだが、ただ視えるだけでなんの力も有しちゃいないのだ!えっへん!!
「油揚げとな??」
ぴくり、と、七曜の耳が引き攣るように動くのを見逃さなかった。
涼しげなマスクに過ぎる甘い誘惑への嘱望。
ここは畳み掛けるように打つべし!打つべし!
「スーパーで売ってるやつじゃないぞっ!豆腐屋で売られてるちゃんとしたやつだ!」
べつにスーパーの棚に陳列されている油揚げがちゃんとしてないなんて言うつもりじゃないけど、
少しでも彼のお気に召すような条件を叩き込んだ。
ちっちゃな子供には使うことが許されなかった最終奥義。
幸いまだ俺の財布には諭吉様という心強いスポンサーが控えていらっしゃる!!
七曜は思案げに細い眉を顰めると、「ううむ」とか「はてさて・・・・・」とか、扇の下でぶつぶつと独り言を繰り返している。
それを俺は祈るような気持ちで見守った。
答えは当然、「YES」であるべきだっ!
・・・・・というか、そうしてくれないと、この物語すすまないぜ☆
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