鬼切の刀-その十八-
鬼さん此方、手の鳴るほうへ・・・・・
手の鳴るほうへ・・・・・
千夏、君が俺のすべてなんだとずっと思い続けてきたけれど、どうやらそうでもないらしい。
だってほら・・・・・千夏がいなくなってしまっても、世界は相も変わらず廻ってる。
ぐるぐるぐるぐる・・・・・
巡り巡って、いつしか君の知らない本当の俺が貌を覗かせるから。
鬼さん此方、手の鳴るほうへ・・・・・
夢が醒めたら、目隠し鬼は、もう御終い。
啖らわずして、擱くべきか。
空っぽだった食膳には彩り豊かな料理が面積を埋め尽くさんばかりに並べられ、美味しそうな白い湯気をほっこりたてている。
小鉢に盛られた、鮪・・・・・だと思う、蝋燭の照明に早くも溶け出すほど、見事なさしが入った赤身魚の刺身。
ふっくら炊き上げられた白飯。
熱々の茶碗蒸しは、魚介類がメインと見た!
ちらっと蓋を開けてみると、エビや帆立、海の幸がふんだんに使われているのが分かった(お行儀悪いから、良い子は真似しちゃ駄目だぜ☆)
他にも上品に盛り付けられた、お新香やら、金箔がまぶしてあるお豆腐やら、ひとりじゃとうてい食べ切れない量のご馳走が俺の胃袋に収納されるのを今や遅しと待っていらっしゃる!
「涎が垂れておりまするぞ」
はしたない。
思いがけず、料亭並みの贅沢な食事のご登場にルンルン気分になっちゃう俺を横目で一瞥するなり、しれっとした顔つきで窘める七曜。
彼はこの数分たらずで稲荷大明神の御使いというVIPなポストをフルに活かし、大入道の席を略奪していた。
穏やかなやりとりの中、静かに交わされた攻防戦は傍目から見ていて手に汗握るものがあった。
脳味噌まで筋肉組織で形成されていそうな大入道は案の定ズタボロのけちょんけちょん。
とどめに七曜がにべもなく放った「退いておくれ」の有無を言わせぬ痛烈なレッドカード宣告に打ちのめされた巨漢の後姿は心なしか萎縮しきっていて・・・・・なんというか、まぁ、気の毒だった。
無慈悲な職権乱用はさておき、はぐれメタルだった俺としちゃ、大助かりなんだけどね。
七曜はゆるりと胡座をかいてから、立てた片方の膝に肘を載せ、まるで自分の家みたいに寛いだ格好でなんともなしに運ばれてきた酒肴を眺めている。
誰人にも気兼ねしないその威風堂々たる居住まいはまさしく、俺は貴賓と黙して語っておられます!
これほど心強い同伴者はいないでしょ、うん。
帰りの便のチケットはゲットしたも同然!
懸念してやまなかったお説教の類も喰らわずにすみそうだし、ツイてるぜ今日の俺!
ほろ酔い程度に気力も回復して、やっと楽しめる余裕がでてきたぞ♪
愉快な見世物の終幕に伴い、まるで蜘蛛の子を散らすように各々の座席にもどっていった異形の来賓達を悠々見渡しほくそ笑んだ。
七曜さえいれば最悪、鬼灯と合流できなくたって心配いらないもんね。
「夏女殿」
「・・・・・ん?? なぁにー??」
有頂天になった俺に、律儀にも初対面を装いながら七曜が声を潜めて囁きかける。
「どういう経緯でここまで参ったかは知らんが、折を見て立ち退かれよ・・・・・此度の酒宴は妙なことばかり。御前の宴に難癖をつけるつもりはござらんが、そなたに大事があっては剣呑。」
「え」
「帰りの足ならば、俺がご用意仕ろう」
反論許すまじと、間休なく告げる七曜の榛色の眸には刺すような鋭い光。
忠告というよりも命令に近い強めの口調が百鬼の宴の不穏さをかもしだしている。
ふざけて駄々をこねることすら躊躇いを覚えずにはいられない重苦しいムード。
「妙なことって・・・・・?」
空中をふわふわ漂うような浮ついた心地から突然、現実へと引き戻された。
活気に満ちた宴に腥い妖気が再び、蘇る。
俺はできるだけ、声を押し殺して訊ねた。
「およそ、稀代の鬼姫、鈴鹿御前の酒宴らしからぬ賓客の面々。この取立てには十中八九、裏があると推察いたしますれば」
むろん、臆断にすぎませぬが。
腹話術師としてもやっていけるんじゃなかろーか・・・・ほとんど唇を動かさず、七曜。
「賓客か。 それって、俺も含まれてるの?」
「おや、女子がそのように乱暴な言葉遣いをなされるものではござりませぬぞ」
「おっとっと、そうでしたわね、オホホホ」
思わず、森永のスナック菓子か!と、自分で突っ込みたくなる頓狂な声を発してから、
無理やり口元に笑みを刻んだ。
ヤッちゃった☆
「くくっ・・・・」
手痛いちょんぼに低く忍び笑いを洩らすと七曜は居心地が悪くなるような、思わせぶりな目つきで俺をみやり、
「俺から離れぬよう・・・・・」
耳触りも柔らかに、そっと優しく言うのだった。
「う、う「夏女ーーーー!! お待たせぇ!!」」
と。二人の間に流れるほのぼのした空気に気恥ずかしさを覚え、口をまごつかせながら、やっとの思いで頷こうとした刹那、俺の返事を遮って能天気まるだしの大音声が耳を貫通する。
義達よ・・・・・。
俺は今、猛烈なデジャヴに襲われている(鬼灯初登場参照)
凶悪な音響に三半規管を狂わされ、ぐらぐらする頭を抱えた。
「あっれー?? どうしたの、夏女」
可愛らしく小首を捻り、悶絶する俺を不可思議そうに見下ろす義達(この野郎!)
「あーーー!!」
次の瞬間、わかったと言いたげな得心顔で無邪気さと残酷さを兼ね備えたベビーフェイスはおっしゃる。
「白狐の君、夏女に何をしたの!」
あ・ほ・か!!
俺に何かした犯人は明らかにおまえ以外の何者でもないわい!!

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手の鳴るほうへ・・・・・
千夏、君が俺のすべてなんだとずっと思い続けてきたけれど、どうやらそうでもないらしい。
だってほら・・・・・千夏がいなくなってしまっても、世界は相も変わらず廻ってる。
ぐるぐるぐるぐる・・・・・
巡り巡って、いつしか君の知らない本当の俺が貌を覗かせるから。
鬼さん此方、手の鳴るほうへ・・・・・
夢が醒めたら、目隠し鬼は、もう御終い。
啖らわずして、擱くべきか。
空っぽだった食膳には彩り豊かな料理が面積を埋め尽くさんばかりに並べられ、美味しそうな白い湯気をほっこりたてている。
小鉢に盛られた、鮪・・・・・だと思う、蝋燭の照明に早くも溶け出すほど、見事なさしが入った赤身魚の刺身。
ふっくら炊き上げられた白飯。
熱々の茶碗蒸しは、魚介類がメインと見た!
ちらっと蓋を開けてみると、エビや帆立、海の幸がふんだんに使われているのが分かった(お行儀悪いから、良い子は真似しちゃ駄目だぜ☆)
他にも上品に盛り付けられた、お新香やら、金箔がまぶしてあるお豆腐やら、ひとりじゃとうてい食べ切れない量のご馳走が俺の胃袋に収納されるのを今や遅しと待っていらっしゃる!
「涎が垂れておりまするぞ」
はしたない。
思いがけず、料亭並みの贅沢な食事のご登場にルンルン気分になっちゃう俺を横目で一瞥するなり、しれっとした顔つきで窘める七曜。
彼はこの数分たらずで稲荷大明神の御使いというVIPなポストをフルに活かし、大入道の席を略奪していた。
穏やかなやりとりの中、静かに交わされた攻防戦は傍目から見ていて手に汗握るものがあった。
脳味噌まで筋肉組織で形成されていそうな大入道は案の定ズタボロのけちょんけちょん。
とどめに七曜がにべもなく放った「退いておくれ」の有無を言わせぬ痛烈なレッドカード宣告に打ちのめされた巨漢の後姿は心なしか萎縮しきっていて・・・・・なんというか、まぁ、気の毒だった。
無慈悲な職権乱用はさておき、はぐれメタルだった俺としちゃ、大助かりなんだけどね。
七曜はゆるりと胡座をかいてから、立てた片方の膝に肘を載せ、まるで自分の家みたいに寛いだ格好でなんともなしに運ばれてきた酒肴を眺めている。
誰人にも気兼ねしないその威風堂々たる居住まいはまさしく、俺は貴賓と黙して語っておられます!
これほど心強い同伴者はいないでしょ、うん。
帰りの便のチケットはゲットしたも同然!
懸念してやまなかったお説教の類も喰らわずにすみそうだし、ツイてるぜ今日の俺!
ほろ酔い程度に気力も回復して、やっと楽しめる余裕がでてきたぞ♪
愉快な見世物の終幕に伴い、まるで蜘蛛の子を散らすように各々の座席にもどっていった異形の来賓達を悠々見渡しほくそ笑んだ。
七曜さえいれば最悪、鬼灯と合流できなくたって心配いらないもんね。
「夏女殿」
「・・・・・ん?? なぁにー??」
有頂天になった俺に、律儀にも初対面を装いながら七曜が声を潜めて囁きかける。
「どういう経緯でここまで参ったかは知らんが、折を見て立ち退かれよ・・・・・此度の酒宴は妙なことばかり。御前の宴に難癖をつけるつもりはござらんが、そなたに大事があっては剣呑。」
「え」
「帰りの足ならば、俺がご用意仕ろう」
反論許すまじと、間休なく告げる七曜の榛色の眸には刺すような鋭い光。
忠告というよりも命令に近い強めの口調が百鬼の宴の不穏さをかもしだしている。
ふざけて駄々をこねることすら躊躇いを覚えずにはいられない重苦しいムード。
「妙なことって・・・・・?」
空中をふわふわ漂うような浮ついた心地から突然、現実へと引き戻された。
活気に満ちた宴に腥い妖気が再び、蘇る。
俺はできるだけ、声を押し殺して訊ねた。
「およそ、稀代の鬼姫、鈴鹿御前の酒宴らしからぬ賓客の面々。この取立てには十中八九、裏があると推察いたしますれば」
むろん、臆断にすぎませぬが。
腹話術師としてもやっていけるんじゃなかろーか・・・・ほとんど唇を動かさず、七曜。
「賓客か。 それって、俺も含まれてるの?」
「おや、女子がそのように乱暴な言葉遣いをなされるものではござりませぬぞ」
「おっとっと、そうでしたわね、オホホホ」
思わず、森永のスナック菓子か!と、自分で突っ込みたくなる頓狂な声を発してから、
無理やり口元に笑みを刻んだ。
ヤッちゃった☆
「くくっ・・・・」
手痛いちょんぼに低く忍び笑いを洩らすと七曜は居心地が悪くなるような、思わせぶりな目つきで俺をみやり、
「俺から離れぬよう・・・・・」
耳触りも柔らかに、そっと優しく言うのだった。
「う、う「夏女ーーーー!! お待たせぇ!!」」
と。二人の間に流れるほのぼのした空気に気恥ずかしさを覚え、口をまごつかせながら、やっとの思いで頷こうとした刹那、俺の返事を遮って能天気まるだしの大音声が耳を貫通する。
義達よ・・・・・。
俺は今、猛烈なデジャヴに襲われている(鬼灯初登場参照)
凶悪な音響に三半規管を狂わされ、ぐらぐらする頭を抱えた。
「あっれー?? どうしたの、夏女」
可愛らしく小首を捻り、悶絶する俺を不可思議そうに見下ろす義達(この野郎!)
「あーーー!!」
次の瞬間、わかったと言いたげな得心顔で無邪気さと残酷さを兼ね備えたベビーフェイスはおっしゃる。
「白狐の君、夏女に何をしたの!」
あ・ほ・か!!
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鬼切の刀-その十七-
「なんだよ、白狐(びゃっこ)殿・・・・・野暮なことを言いなさるな」
往生際の悪い壮年のオッサンはしつこく俺を抱きかかえたまま、明らかにムッとした表情で七曜を睨めつけた。
和気藹々とランデブーを楽しむカップルに水をさすような無粋者扱いされた当の白狐殿は動じるそぶりもなく、こともなげにくつりと喉を鳴らす。
揉め事の匂いを嗅ぎつけたのか、どんちゃん騒ぎに余念がなかった連中も、知らないうちに鈴なりになって、俺達の様子をじいっと窺っていた。
中にはあの、女性の脚部をぺろりと平らげていた人喰い妖怪も混じっている。
注目されてる。今、すっごい注目されてるっ!
泥酔状態の俺にもそれぐらいわかる。非常によろしくない展開だ。
なんだって、こんな不道徳な集会場に稲荷台明神様の御遣いがひょっこりいらっしゃるワケ!?
御社はどうしたの??
あ、もう定時はとっくのとうに過ぎてるな・・・・・って、仕事上がりに一杯引っ掛けようだなんて、あんたはいったいどこまでサラリーマンじみたら気がすむの!?
仮にも神様と人間の橋渡しをする大切な役目を担った貴(たっと)い天狐様でしょう?
そこらへん自覚あるのか??
他人のこと、とやかく言えた義理じゃないけど。
就職先の上司がそんなだと、俺・・・・・
将来、不安になっちゃうなぁ!?
「大入道殿・・・・・」
七曜はドキッとするような流し目で、ド派手な化粧と鬘、しかも鬼灯がちょろまかした巫女装束でもはや原型を留めていない俺と、小岩にも比肩する大柄なオッサンを見比べ、吐息まじりに呟いた。
それがもう、ちょっと眉を顰めただけなんだけど、物凄く悩ましげな仕種で・・・・背後にいた数人の女性(?)がバタバタ床に昏倒するほどの殺傷力。
お、恐ろしい。
犠牲者を目の当たりにしたギャラリーが俄かに怖(お)めく。
これが、計算づくならまだしも、無意識に繰り出される妙技だから余計に性質が悪い。
「俺は夏女殿と話がしたいのだが・・・・・」
暫し、貸してはいただけないものだろうか。
口元には仄かな微笑が揺れているのに、瞳は鋭く冷め切っていて、わざとらしいくらい不釣合いな相好にうなじの毛がそそけだつような恐怖を覚えた。
怒ってる!?ねぇ、怒ってる!?
勝手に神社の所有物をパクっただけに留まらず、曲がりなりにも宮司を目指そうってヤツがこぉんなふざけた格好して、妖怪の会合にちゃっかり参加しちゃうとか・・・・・やっぱり、アウトですか!?
で、でもさ。でもさ。ひとつ言わせてちょうだい。
尊い巫女さんの衣装を関係者に無断で拝借したのも、百鬼が跳梁跋扈する宴席に俺を招いたのも、東京から遠路はるばる俺を負ぶって熊野まで完走しきったのも、全部、ぜぇ〜〜〜んぶ、鬼灯なんだぜ!?
どうして肝心なときにいないんだよ、あいつぅ!
大入道も七曜が発する得体の知れないオーラを察したのか、怖いしかめっ面のまま俺を掴んで離さなかった素晴らしく逞しい、筋肉隆々の太い腕を未練たらたら引っ剥がす。
これ幸いとまろぶように這いつくばって、妖怪の膝下から逃れる俺にむかって、思いがけず七曜が手を差し伸べてくれた。
「・・・・・あ、ありがとぉお!!?」
油断して緊張をほぐしかけた瞬間、華奢な細腕からは想像もつかないような物凄い力でぐいとひっぱりあげられた。
地引網にかかった鮭ですか、俺はぁ!?
愚かにも女性に対するジェントルマン的な対応を想定していた俺は素で奇声あげてしまう。
ヅラが落っこちでもしたらどうしてくれんだよぅ。
っていうかあんまり揺らさないで、刺激をあたえられると、リバースしちゃいそう。
こりゃお説教部屋行きかな・・・・・。
小洒落たレリーフや絵画のかわりに、壁面のいたるところに飾りつけられた拷問器具もおどろおどろしい一室で、ごつい肘掛け椅子にふん縛られた俺が、金粉飛び散るピコピコハンマーの餌食になっている光景がまざまざと瞼の裏側に浮かんでは消えた。
いや、俺はさんまさん大好きだし、彼と二人きりでトークができるなら、むしろ光栄なんだけど。
残念ながら、実際はそんな生易しい罰ゲームじゃすまないだろうし・・・・・。
恐る恐る視線をもちあげてみる。
「・・・・・え?」
予想とは裏腹に、哀しげな、それでいてどこか懐かしそうな・・・・・胸を締めつけられる切ない眼差しが、シャワーの如く降り注ぐ。
俺の顔を凝視しながら、押し黙る七曜のただならぬ雰囲気にどぎまぎした。
え!?ひょっとして『今回の件でほとほと愛想が尽きた。貴様との付き合いもこれきりだ・・・・・』とかなんとか言い出さないよな!?
悉く意表を突かれた俺は、いてもたってもいられない焦燥感に駆られる。
ど、どどどどうしよう。
しどろもどろになって、メイクも流れ落ちる勢いで冷や汗をかくオカマな俺を尻目に、
「なかなかに愛らしいぞ」俺だけにしか聞こえない小声で七曜が嘲笑する。
あ・・・・あのね!
今の微妙な溜めは何!?
もったいぶらずに、あっさり答えられると面白味に欠けるってずっと前に言ったの、いまだに根に持ってたり!?
ちょっとばかり、狭量じゃあありませんか!?
「これは鬼ず・・・・・」
慌てて弁解する俺の口に、黙れと言わんばかりにやんわりと白魚のような指が添えられる。
「その名で呼ぶなとあれに言われたろう?」
ニィと口角を左右に吊り上げ、意味深に嗤笑する七曜。
そういえば、そうだった。指摘されるまで、うっかり忘れていた。
百鬼夜行に参加せんと集った群衆と合流する刹那、自分を朱天と呼ぶようにと、念押ししていた鬼灯を思い出す。
本当に、あいつ今頃どこほっつき歩いてんだか・・・・・存外、迷っているかもしれないぞ。
「くくっ、小鬼め・・・・何を企んでおるのやら」
七曜は楚々と袖先で口元を覆うと、愉しげにそっと呟いた。

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往生際の悪い壮年のオッサンはしつこく俺を抱きかかえたまま、明らかにムッとした表情で七曜を睨めつけた。
和気藹々とランデブーを楽しむカップルに水をさすような無粋者扱いされた当の白狐殿は動じるそぶりもなく、こともなげにくつりと喉を鳴らす。
揉め事の匂いを嗅ぎつけたのか、どんちゃん騒ぎに余念がなかった連中も、知らないうちに鈴なりになって、俺達の様子をじいっと窺っていた。
中にはあの、女性の脚部をぺろりと平らげていた人喰い妖怪も混じっている。
注目されてる。今、すっごい注目されてるっ!
泥酔状態の俺にもそれぐらいわかる。非常によろしくない展開だ。
なんだって、こんな不道徳な集会場に稲荷台明神様の御遣いがひょっこりいらっしゃるワケ!?
御社はどうしたの??
あ、もう定時はとっくのとうに過ぎてるな・・・・・って、仕事上がりに一杯引っ掛けようだなんて、あんたはいったいどこまでサラリーマンじみたら気がすむの!?
仮にも神様と人間の橋渡しをする大切な役目を担った貴(たっと)い天狐様でしょう?
そこらへん自覚あるのか??
他人のこと、とやかく言えた義理じゃないけど。
就職先の上司がそんなだと、俺・・・・・
将来、不安になっちゃうなぁ!?
「大入道殿・・・・・」
七曜はドキッとするような流し目で、ド派手な化粧と鬘、しかも鬼灯がちょろまかした巫女装束でもはや原型を留めていない俺と、小岩にも比肩する大柄なオッサンを見比べ、吐息まじりに呟いた。
それがもう、ちょっと眉を顰めただけなんだけど、物凄く悩ましげな仕種で・・・・背後にいた数人の女性(?)がバタバタ床に昏倒するほどの殺傷力。
お、恐ろしい。
犠牲者を目の当たりにしたギャラリーが俄かに怖(お)めく。
これが、計算づくならまだしも、無意識に繰り出される妙技だから余計に性質が悪い。
「俺は夏女殿と話がしたいのだが・・・・・」
暫し、貸してはいただけないものだろうか。
口元には仄かな微笑が揺れているのに、瞳は鋭く冷め切っていて、わざとらしいくらい不釣合いな相好にうなじの毛がそそけだつような恐怖を覚えた。
怒ってる!?ねぇ、怒ってる!?
勝手に神社の所有物をパクっただけに留まらず、曲がりなりにも宮司を目指そうってヤツがこぉんなふざけた格好して、妖怪の会合にちゃっかり参加しちゃうとか・・・・・やっぱり、アウトですか!?
で、でもさ。でもさ。ひとつ言わせてちょうだい。
尊い巫女さんの衣装を関係者に無断で拝借したのも、百鬼が跳梁跋扈する宴席に俺を招いたのも、東京から遠路はるばる俺を負ぶって熊野まで完走しきったのも、全部、ぜぇ〜〜〜んぶ、鬼灯なんだぜ!?
どうして肝心なときにいないんだよ、あいつぅ!
大入道も七曜が発する得体の知れないオーラを察したのか、怖いしかめっ面のまま俺を掴んで離さなかった素晴らしく逞しい、筋肉隆々の太い腕を未練たらたら引っ剥がす。
これ幸いとまろぶように這いつくばって、妖怪の膝下から逃れる俺にむかって、思いがけず七曜が手を差し伸べてくれた。
「・・・・・あ、ありがとぉお!!?」
油断して緊張をほぐしかけた瞬間、華奢な細腕からは想像もつかないような物凄い力でぐいとひっぱりあげられた。
地引網にかかった鮭ですか、俺はぁ!?
愚かにも女性に対するジェントルマン的な対応を想定していた俺は素で奇声あげてしまう。
ヅラが落っこちでもしたらどうしてくれんだよぅ。
っていうかあんまり揺らさないで、刺激をあたえられると、リバースしちゃいそう。
こりゃお説教部屋行きかな・・・・・。
小洒落たレリーフや絵画のかわりに、壁面のいたるところに飾りつけられた拷問器具もおどろおどろしい一室で、ごつい肘掛け椅子にふん縛られた俺が、金粉飛び散るピコピコハンマーの餌食になっている光景がまざまざと瞼の裏側に浮かんでは消えた。
いや、俺はさんまさん大好きだし、彼と二人きりでトークができるなら、むしろ光栄なんだけど。
残念ながら、実際はそんな生易しい罰ゲームじゃすまないだろうし・・・・・。
恐る恐る視線をもちあげてみる。
「・・・・・え?」
予想とは裏腹に、哀しげな、それでいてどこか懐かしそうな・・・・・胸を締めつけられる切ない眼差しが、シャワーの如く降り注ぐ。
俺の顔を凝視しながら、押し黙る七曜のただならぬ雰囲気にどぎまぎした。
え!?ひょっとして『今回の件でほとほと愛想が尽きた。貴様との付き合いもこれきりだ・・・・・』とかなんとか言い出さないよな!?
悉く意表を突かれた俺は、いてもたってもいられない焦燥感に駆られる。
ど、どどどどうしよう。
しどろもどろになって、メイクも流れ落ちる勢いで冷や汗をかくオカマな俺を尻目に、
「なかなかに愛らしいぞ」俺だけにしか聞こえない小声で七曜が嘲笑する。
あ・・・・あのね!
今の微妙な溜めは何!?
もったいぶらずに、あっさり答えられると面白味に欠けるってずっと前に言ったの、いまだに根に持ってたり!?
ちょっとばかり、狭量じゃあありませんか!?
「これは鬼ず・・・・・」
慌てて弁解する俺の口に、黙れと言わんばかりにやんわりと白魚のような指が添えられる。
「その名で呼ぶなとあれに言われたろう?」
ニィと口角を左右に吊り上げ、意味深に嗤笑する七曜。
そういえば、そうだった。指摘されるまで、うっかり忘れていた。
百鬼夜行に参加せんと集った群衆と合流する刹那、自分を朱天と呼ぶようにと、念押ししていた鬼灯を思い出す。
本当に、あいつ今頃どこほっつき歩いてんだか・・・・・存外、迷っているかもしれないぞ。
「くくっ、小鬼め・・・・何を企んでおるのやら」
七曜は楚々と袖先で口元を覆うと、愉しげにそっと呟いた。
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鈴鹿御前とかいう、スーパーモデルも裸足で逃げ出すようなとびっきりの美女のもとへ挨拶にいったまま、失踪してしまった鬼灯くん・・・・・お元気ですか?
カニバリズムがごく有り触れた趣向である不穏極まりない魑魅魍魎が跋扈する危険地帯に独り、置いてきぼりを喰らった俺は、地獄に仏といわんばかりに咲き零れる笑みも妖美な美女軍団とお近づきになれないどころか、うっかり生死の境を彷徨(うろつ)いています。
「どぅぞぉ〜・・・・・」
震える喉を叱咤して、できそこないのキャバ嬢よろしく妖艶というより、面妖な愛想笑いを浮かべてみせる。
こわごわ差し出した瓶子の口が、杯の縁にあたって大仰な音を発した。
蚤の心臓を持つ男・・・・・九鬼 夏彦こと、ニューハーフ夏女はそれだけでもう、豆鉄砲食らった鳩みたいに、生きた心地がしない。
空咳で誤魔化してから、気を取り直し、匂いを嗅ぐだけで酔いそうな酒をなみなみ注いでやった。
「おう、ととっ・・・・・」
ツルツルに剃りあげられたスキンヘッドがみるからに厳(いかめ)しい、大柄な坊さんは分厚い唇を窄め、器から溢れそうになる甘露酒を慌てて啜る。
ゲットした席がまさか柄の悪い巨漢の隣とは、ツイてない。
すまない、義達。
再三にわたる警告も空しく、まんまと足止め食らってる。
懇意のあらわれか、グローブを髣髴とさせる無骨な手で背中をバシバシ叩かれ、体力をごっそり奪われた挙句、とどめの「酌をしてくれ」攻撃。
軽いジャブの末に、アッパー・カットをお見舞いされた気分。
・・・・・九鬼 夏彦、KO負け。
緊張と長閑(のどか)さが綯い交ぜになった、はりつめた空気のなか、あのタイミングで毅然と首を横に触れるヤツがいるとしたら、俺はその勇者に惜しみない賞賛の念を送りたい。
ぶっとい毛虫にそっくりな剛毛茂る眉宇の下でぎょろりと蠢く眼球は心なしか血走って、ギラギラしていて・・・・・なんていうかもう、粗相をしでかした瞬間、殺されちゃいそう。
ぎこちないそら笑いで顔面をコーティングしながら、戦々兢々とお酌をする一方、四方八方視線を巡らし、逃げ出すための口実を探す俺。
まさしく、酔いどれと化した親父がしつこく纏わり付いてくるのを何気なくやり過ごす折に使う手段だ。
・・・・・・と。
隣席の巨躯を隔てたさらに向こう側。大入道の肩越しにみえる客人。
健康そうな褐色の肌。ところどころほつれた薄緑色の襤褸を纏い、腰部には、帯代わりに縄紐が巻きつけられている。
岩から鑿(のみ)で荒削りしたような強面(こわもて)のおっさんがむしゃむしゃ平らげているものが視界に飛び込んできた。
「・・・・・!?」
驚愕のあまり、両目をいっぱいに見開く。
ごりごりくちゃくちゃ・・・・・骨付きカルビの骨まで噛み砕くような、ありえない咀嚼音とともに、淑やかな曲線を描く女性の爪先らしきものがちょうど飲み込まれるところだった!
喉もとの皮膚が豪快に波打ち、大きな塊を飲み下す様子が傍目からもはっきりと窺える。
・・・・・・・ヽ(*゚ω。)ノワァオ
ええええ!?
ちょ、ちょっとちょっと!!
それは何でしょう。今しがたハンティングしてこられた獲物でしょうか!?
あたりを憚らない盛大なゲップを轟かせ、満足そうに杯へと手を伸ばす鬼だか獣だかわからない妖。
乾杯の合図もされないうちからすっかりできあがっている。
「・・・・・・」
咄嗟に俺は・・・・・何も見なかったことにした。
だって、明日は我が身だぜ!?
っていうか、次の瞬間、我が身。
どんなお化け屋敷だって此処に勝りはしないだろう!?
上には上がいらっしゃった。
前言撤回、大入道の隣で、助かった!
あそこらへんいったい、冗談抜きにレッドゾーン過ぎる。
酒の濃厚な薫りで嗅覚が麻痺しちゃっているのか、生々しい血臭こそ紛れてしまっているけど、
殺人現場に匹敵する凄惨な光景は、まわりの愉しげなどんちゃん騒ぎと相俟って、異様さばかりが際立つ。
「・・・・・おや、震えておるわいなぁ?可愛らしい」
ずずいと、だしぬけに大入道の下卑た薄ら笑い顔が近づけられて、思わず首を仰け反らせた。
人間でもこういう中年いるよ。
権力を傘にして、労働に勤しむ真面目なOLさん相手に堂々とセクハラを働く不届きな輩。
「オホホ・・・・お戯れを」
さりげなぁ〜〜く太腿に伸びてきた魔手をピシャリと叩き落とした。
油断も隙もありゃしない。
通勤ラッシュの満員電車ならいざしらず、公衆の面前でタッチとは。
ああ、鬼灯、義達・・・・・誰でもいいから早くきてくれ。貞操の危機だよ。
痴漢野郎が女性諸君にとってどれだけ嫌悪すべき存在か、身をもって理解した。
容赦なくぶたれた手の甲をさすりもせず、痴漢野郎・・・・・もとい、大入道めはニヤリと唇を歪めて笑う。
「情の強(こわ)い女子よ」
「うふふ・・・・・おじ様ったら、助平なんだからw」
かくいう俺も、語尾にハートつけたりしちゃ、逆効果だろう。
馬鹿馬鹿・・・・・愛想ふりまいてどうするんだ。
「ほぅ?」
媚びたオカマの声色に気を良くしちゃったのか、さらに増長しだしたオッサンは、膝行でにじり寄ると、図々しくも俺の肩を無遠慮に掻き抱く。
乱暴かつ強引なアプローチに、ミシミシ胸骨あたりが軋んだ。
「いっ・・・・痛っ」
「さあさ、一献」
空いたほうの手にはいつの間にか徳利が摘まれている。
正直、ちっともありがたくない。
良いではないか、良いではないか・・・・って、おまえは何処の悪代官だ!
酒気を孕む、生臭い息とともに吐きだされる猫撫で声は、不快をとおりこして、ぞっとするものがあった。
嗚呼ッ、不純な動機でのこのこ百鬼夜行なんかに参加したりするからこういう目に遭うんだ。
ごめんなさい。ごめんなさい。
「・・・・・むがっ!!?」
一心不乱に懺悔する俺の口をこじ開け、非情にも酒瓶を捻じ込んでくる大入道は愉楽に目が逝ってしまっている。
ほぼ、90度に傾けられた瓶子から直接、口腔に注ぎ込まれるアルコールにカッと胃の腑が発熱した。
飲みきれなかった酒がだらしなく垂れた顎から喉を伝って、襟元を濡らす。
少量にも関わらず、気づいたらすっかり俺も酔いどれの仲間入りを果たしていた。
ぐらぐら視界が揺れて、ピントが合わせづらいったらない。
明らかに不味い、危機的状況とは裏腹に言い知れない高揚感が体の内側を満たしていく。
「今宵の甘露は格別であろう」
好色漢はへべれけになった俺の耳元でねっとり囁くと、一気に酔い潰そうという肚か、さらなる暴飲をすすめてくる。
「いりまひぇん」
なんと、すでに呂律も回らない!?
自分の酩酊ぶりに、吃驚した。
酔ってます、じゅうぶん酔ってますからこれ以上、未成年に乱酒を促さないで、お願い!!
逃げようにもがっしり躯を抱え込まれて、にっちもさっちもいかない有様。
おーたーすーけーーー!!。
「大入道殿、お戯れはほどほどになされよ」
どこかで聞いた覚えのある凛と、張りのある低声が立ち込める騒然とした熱気を忽ちのうちに冷却した。
半ば意識が朦朧としかけていた俺はだるい頭を擡げ、電車男さながらに割って入ってきてくれた紳士を見つめあげる。
高貴さが滲み出る紫黒の装束に包まれたしなやかなシルエット。
幽闇に映える白い肌は清楚な乙女のように可憐でいて、どこか艶かしい。
はんなり微笑む薄い唇からチラチラのぞく鋭い犬歯。
すっと墨を引いたように流麗な、切れ長の眸を縁取る婀娜やかな・・・・・紅い隈取。
眠りに堕ちる寸前の半眼ををぎょっと、剥いた。
「「七曜!!」」
俺と、大入道の濁声が見事なハーモニーを織り成す。
な、ななななんで此処に!?
陸に打ち上げられた魚の如く、口をパクパク開閉させながら、思いがけず絶句した。
「お初にお目にかかりまするなぁ、夏女殿・・・・・」
ケタリと笑う白面を慄然と見返す。

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カニバリズムがごく有り触れた趣向である不穏極まりない魑魅魍魎が跋扈する危険地帯に独り、置いてきぼりを喰らった俺は、地獄に仏といわんばかりに咲き零れる笑みも妖美な美女軍団とお近づきになれないどころか、うっかり生死の境を彷徨(うろつ)いています。
「どぅぞぉ〜・・・・・」
震える喉を叱咤して、できそこないのキャバ嬢よろしく妖艶というより、面妖な愛想笑いを浮かべてみせる。
こわごわ差し出した瓶子の口が、杯の縁にあたって大仰な音を発した。
蚤の心臓を持つ男・・・・・九鬼 夏彦こと、ニューハーフ夏女はそれだけでもう、豆鉄砲食らった鳩みたいに、生きた心地がしない。
空咳で誤魔化してから、気を取り直し、匂いを嗅ぐだけで酔いそうな酒をなみなみ注いでやった。
「おう、ととっ・・・・・」
ツルツルに剃りあげられたスキンヘッドがみるからに厳(いかめ)しい、大柄な坊さんは分厚い唇を窄め、器から溢れそうになる甘露酒を慌てて啜る。
ゲットした席がまさか柄の悪い巨漢の隣とは、ツイてない。
すまない、義達。
再三にわたる警告も空しく、まんまと足止め食らってる。
懇意のあらわれか、グローブを髣髴とさせる無骨な手で背中をバシバシ叩かれ、体力をごっそり奪われた挙句、とどめの「酌をしてくれ」攻撃。
軽いジャブの末に、アッパー・カットをお見舞いされた気分。
・・・・・九鬼 夏彦、KO負け。
緊張と長閑(のどか)さが綯い交ぜになった、はりつめた空気のなか、あのタイミングで毅然と首を横に触れるヤツがいるとしたら、俺はその勇者に惜しみない賞賛の念を送りたい。
ぶっとい毛虫にそっくりな剛毛茂る眉宇の下でぎょろりと蠢く眼球は心なしか血走って、ギラギラしていて・・・・・なんていうかもう、粗相をしでかした瞬間、殺されちゃいそう。
ぎこちないそら笑いで顔面をコーティングしながら、戦々兢々とお酌をする一方、四方八方視線を巡らし、逃げ出すための口実を探す俺。
まさしく、酔いどれと化した親父がしつこく纏わり付いてくるのを何気なくやり過ごす折に使う手段だ。
・・・・・・と。
隣席の巨躯を隔てたさらに向こう側。大入道の肩越しにみえる客人。
健康そうな褐色の肌。ところどころほつれた薄緑色の襤褸を纏い、腰部には、帯代わりに縄紐が巻きつけられている。
岩から鑿(のみ)で荒削りしたような強面(こわもて)のおっさんがむしゃむしゃ平らげているものが視界に飛び込んできた。
「・・・・・!?」
驚愕のあまり、両目をいっぱいに見開く。
ごりごりくちゃくちゃ・・・・・骨付きカルビの骨まで噛み砕くような、ありえない咀嚼音とともに、淑やかな曲線を描く女性の爪先らしきものがちょうど飲み込まれるところだった!
喉もとの皮膚が豪快に波打ち、大きな塊を飲み下す様子が傍目からもはっきりと窺える。
・・・・・・・ヽ(*゚ω。)ノワァオ
ええええ!?
ちょ、ちょっとちょっと!!
それは何でしょう。今しがたハンティングしてこられた獲物でしょうか!?
あたりを憚らない盛大なゲップを轟かせ、満足そうに杯へと手を伸ばす鬼だか獣だかわからない妖。
乾杯の合図もされないうちからすっかりできあがっている。
「・・・・・・」
咄嗟に俺は・・・・・何も見なかったことにした。
だって、明日は我が身だぜ!?
っていうか、次の瞬間、我が身。
どんなお化け屋敷だって此処に勝りはしないだろう!?
上には上がいらっしゃった。
前言撤回、大入道の隣で、助かった!
あそこらへんいったい、冗談抜きにレッドゾーン過ぎる。
酒の濃厚な薫りで嗅覚が麻痺しちゃっているのか、生々しい血臭こそ紛れてしまっているけど、
殺人現場に匹敵する凄惨な光景は、まわりの愉しげなどんちゃん騒ぎと相俟って、異様さばかりが際立つ。
「・・・・・おや、震えておるわいなぁ?可愛らしい」
ずずいと、だしぬけに大入道の下卑た薄ら笑い顔が近づけられて、思わず首を仰け反らせた。
人間でもこういう中年いるよ。
権力を傘にして、労働に勤しむ真面目なOLさん相手に堂々とセクハラを働く不届きな輩。
「オホホ・・・・お戯れを」
さりげなぁ〜〜く太腿に伸びてきた魔手をピシャリと叩き落とした。
油断も隙もありゃしない。
通勤ラッシュの満員電車ならいざしらず、公衆の面前でタッチとは。
ああ、鬼灯、義達・・・・・誰でもいいから早くきてくれ。貞操の危機だよ。
痴漢野郎が女性諸君にとってどれだけ嫌悪すべき存在か、身をもって理解した。
容赦なくぶたれた手の甲をさすりもせず、痴漢野郎・・・・・もとい、大入道めはニヤリと唇を歪めて笑う。
「情の強(こわ)い女子よ」
「うふふ・・・・・おじ様ったら、助平なんだからw」
かくいう俺も、語尾にハートつけたりしちゃ、逆効果だろう。
馬鹿馬鹿・・・・・愛想ふりまいてどうするんだ。
「ほぅ?」
媚びたオカマの声色に気を良くしちゃったのか、さらに増長しだしたオッサンは、膝行でにじり寄ると、図々しくも俺の肩を無遠慮に掻き抱く。
乱暴かつ強引なアプローチに、ミシミシ胸骨あたりが軋んだ。
「いっ・・・・痛っ」
「さあさ、一献」
空いたほうの手にはいつの間にか徳利が摘まれている。
正直、ちっともありがたくない。
良いではないか、良いではないか・・・・って、おまえは何処の悪代官だ!
酒気を孕む、生臭い息とともに吐きだされる猫撫で声は、不快をとおりこして、ぞっとするものがあった。
嗚呼ッ、不純な動機でのこのこ百鬼夜行なんかに参加したりするからこういう目に遭うんだ。
ごめんなさい。ごめんなさい。
「・・・・・むがっ!!?」
一心不乱に懺悔する俺の口をこじ開け、非情にも酒瓶を捻じ込んでくる大入道は愉楽に目が逝ってしまっている。
ほぼ、90度に傾けられた瓶子から直接、口腔に注ぎ込まれるアルコールにカッと胃の腑が発熱した。
飲みきれなかった酒がだらしなく垂れた顎から喉を伝って、襟元を濡らす。
少量にも関わらず、気づいたらすっかり俺も酔いどれの仲間入りを果たしていた。
ぐらぐら視界が揺れて、ピントが合わせづらいったらない。
明らかに不味い、危機的状況とは裏腹に言い知れない高揚感が体の内側を満たしていく。
「今宵の甘露は格別であろう」
好色漢はへべれけになった俺の耳元でねっとり囁くと、一気に酔い潰そうという肚か、さらなる暴飲をすすめてくる。
「いりまひぇん」
なんと、すでに呂律も回らない!?
自分の酩酊ぶりに、吃驚した。
酔ってます、じゅうぶん酔ってますからこれ以上、未成年に乱酒を促さないで、お願い!!
逃げようにもがっしり躯を抱え込まれて、にっちもさっちもいかない有様。
おーたーすーけーーー!!。
「大入道殿、お戯れはほどほどになされよ」
どこかで聞いた覚えのある凛と、張りのある低声が立ち込める騒然とした熱気を忽ちのうちに冷却した。
半ば意識が朦朧としかけていた俺はだるい頭を擡げ、電車男さながらに割って入ってきてくれた紳士を見つめあげる。
高貴さが滲み出る紫黒の装束に包まれたしなやかなシルエット。
幽闇に映える白い肌は清楚な乙女のように可憐でいて、どこか艶かしい。
はんなり微笑む薄い唇からチラチラのぞく鋭い犬歯。
すっと墨を引いたように流麗な、切れ長の眸を縁取る婀娜やかな・・・・・紅い隈取。
眠りに堕ちる寸前の半眼ををぎょっと、剥いた。
「「七曜!!」」
俺と、大入道の濁声が見事なハーモニーを織り成す。
な、ななななんで此処に!?
陸に打ち上げられた魚の如く、口をパクパク開閉させながら、思いがけず絶句した。
「お初にお目にかかりまするなぁ、夏女殿・・・・・」
ケタリと笑う白面を慄然と見返す。
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義上曰く、セッツ国っていうのは決してマサチューセッツの略称などではなく、列記とした日本の地名で、現在の大阪あたりを示すらしい!
夏彦のかしこさが1あがった。
・・・・・すると、なんだ結局、関東は俺だけ?寂しいな。
名残惜しさもひとしおに、下に降ろしてやった茨はうんと大きな伸びをして、「夏女」そっくりかえるように上体を反らしながら、小さなピンク色の唇を綻ばせる。
「夏女はもうちょっと牛の乳を飲んだほうが良いぞ」
「はい?」
牛の乳・・・・・。
何故?
ンモォーーーーーーー!
白と黒のコントラストがお馴染みの、斑模様の乳牛がひたすら草を食(は)んでいる穏やかな牧場の風景は、壮大なスケール感を伴い、脳内に描きだされる。
「・・・・・なんで?」
内心、首を捻った。
やたら唐突すぎるうえに、アドバイスの真意がまったくとして汲み取れない。
薄っぺらい、ひ弱そうな体つきをしているかもしれないけど、少なくとも平均には達している身長。
ろくに勉強やら部活、バイトに打ち込んでいるわけでもない、スローライフ爆走中の高校生が乳製品に頼らなければならないほど深刻なストレスを抱えていようはずもなかった。
目をぱちくりさせていると、茨はクスクス意味ありげな忍び笑いを洩らし、
「大きいほうが何かと有利だぞ?」
胸をとんとん叩いてみせる。
大きいほうがお得、かつ、牛乳で育つモノ??
ジェスチャーに何かヒントが隠されていそうだけど。
・・・・・まさか。
俺はぎょっとして、茨を見つめた。
年齢不詳、あんよができちゃうウルトラベイビーはわざとらしく俺のバストあたりに視線を彷徨わせている。
「こ・・・・・こんの、マセ餓鬼っ!」
教育的指導、愛の鉄槌、もとい、ただの凸ピンをお見舞いした!
解放たれた俺の人差し指が唸りをあげて、茨の眉間にクリティカルヒットする。
「あいたっ」
「女の子にそーいう失礼なこと言っちゃいけません!」
身長が膝にも満たない乳幼児にセクハラをうけたヤツ、人類始まって以来、存在するんだろーか?
いや、そもそも茨サイズのお子様が流暢に喋っている時点でアンビリバボーか。
違和感が薄れてきたあたり、少しづつ妖怪の常識に毒されつつあるのかもしれない。
「大丈夫だよ」
突然、わけ知り顔の義継が宥めるように割って入ってきたかと思うと、馴れ馴れしく掌を肩のうえに置いた。
ウチのクラスの女子だったら、卒倒しかねないであろう、極上のスマイルを浮かべて・・・・・。
「俺は巨乳よりも、コンパクトサイズのほうが好みだからさ」
なんちゃってニューハーフには決して通用しない、色男特有のフェロモン撒き散らしながら、義継はキザったらしく言い切った。
それが恐ろしく様になっているから尊敬しちゃう。
・・・・・あれ?
ちょっと待て。
今、明らかに聞き捨てならない単語が含まれていなかったか?
ちょっとだけ、プレイバック。プレイバック。
『俺は巨乳よりも、コンパクトサイズのほうが好みだからさ』
・・・・・・コンパクトサイズ??
「ちょっと!」
不届き者の下心にまみれた手をギュっと抓ってやる。
「っ・・・・・イデデ」
義継の個人的な趣味はどうでも良い。
だいたい、バストサイズがMEGUMI級であろうとなかろうと、それが=(イコール)女性の魅力じゃないからだ。
セックスアピールは胸に限るなんて法律どこにもない。
そりゃあ大は小を兼ねるって言うし、茨の指摘どおりあったほうがお得な感は漂う。
俺だって、正直、彼女には少なくともBサイズくらいのボリュームはあって欲しい・・・・・って、何を口走っているんだ、夏彦。落ち着け!
とにかくっ!【コンパクト】を肯定するデリカシーゼロ発言のほうが問題だろーがっ!
「大きいよ!」とか「グラマラスだよ!」とか、見え透いたフォローを期待してたワケじゃない。
だが、然し!
男たるもの、女性にお世辞のひとつやふたつくらい言ってもバチは当たらないぞ、義継。
ミスターレディの繊細なガラスのハートは、地味に傷ついた。
「ごめん、ごめん〜〜〜」
うっすら赤くなった手の甲を擦りながら苦笑いする義継を横目で睨みつけ「別にいいけどさ」頬を膨らませてみせる。
次回、奇しくもこーいう格好をする事態に陥ったら、ヌーブラくらい装備すべきだろうか。
「まぁまぁ、おさえておさえて・・・・・そんじゃ、ま、席がなくならないうちにとっとといって、とっとと合流しましょうや」
義上は気まずくなった場を和ませるように、二カッと白い歯を見せながら、人懐こそうな顔で笑った。
「そうだね」
忙しなくきょろきょろまわりの様子を窺いながら義達も頷く。
「夏女に悪い虫がつくまえにさっさと迎えにいかなくちゃいけないし・・・・・・」
真剣な面持ちで何やらブツブツと算段している。
友人の独白を盗み聞きしてしまった俺は思わず、ずっこけそうになった。
おまえは俺の親父か?彼氏か!?
色気皆無の小娘よりも百倍、麗しい方々がいらっしゃるのに何を心配しているんだ、さっきから。
「夏女、俺たち以外のヤツと口利いちゃダメだからね! とって喰われちゃう!!」
「お、OK」
鬼気迫る義達の形相に固唾を呑んだ。
この場合、ニュアンスの判断に苦しむ。
「それじゃあまた後でね」
俺はこれ以上ひきとめられないうちに、そそくさとグループから離脱し、受け付け待ちの列に加わった。

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夏彦のかしこさが1あがった。
・・・・・すると、なんだ結局、関東は俺だけ?寂しいな。
名残惜しさもひとしおに、下に降ろしてやった茨はうんと大きな伸びをして、「夏女」そっくりかえるように上体を反らしながら、小さなピンク色の唇を綻ばせる。
「夏女はもうちょっと牛の乳を飲んだほうが良いぞ」
「はい?」
牛の乳・・・・・。
何故?
ンモォーーーーーーー!
白と黒のコントラストがお馴染みの、斑模様の乳牛がひたすら草を食(は)んでいる穏やかな牧場の風景は、壮大なスケール感を伴い、脳内に描きだされる。
「・・・・・なんで?」
内心、首を捻った。
やたら唐突すぎるうえに、アドバイスの真意がまったくとして汲み取れない。
薄っぺらい、ひ弱そうな体つきをしているかもしれないけど、少なくとも平均には達している身長。
ろくに勉強やら部活、バイトに打ち込んでいるわけでもない、スローライフ爆走中の高校生が乳製品に頼らなければならないほど深刻なストレスを抱えていようはずもなかった。
目をぱちくりさせていると、茨はクスクス意味ありげな忍び笑いを洩らし、
「大きいほうが何かと有利だぞ?」
胸をとんとん叩いてみせる。
大きいほうがお得、かつ、牛乳で育つモノ??
ジェスチャーに何かヒントが隠されていそうだけど。
・・・・・まさか。
俺はぎょっとして、茨を見つめた。
年齢不詳、あんよができちゃうウルトラベイビーはわざとらしく俺のバストあたりに視線を彷徨わせている。
「こ・・・・・こんの、マセ餓鬼っ!」
教育的指導、愛の鉄槌、もとい、ただの凸ピンをお見舞いした!
解放たれた俺の人差し指が唸りをあげて、茨の眉間にクリティカルヒットする。
「あいたっ」
「女の子にそーいう失礼なこと言っちゃいけません!」
身長が膝にも満たない乳幼児にセクハラをうけたヤツ、人類始まって以来、存在するんだろーか?
いや、そもそも茨サイズのお子様が流暢に喋っている時点でアンビリバボーか。
違和感が薄れてきたあたり、少しづつ妖怪の常識に毒されつつあるのかもしれない。
「大丈夫だよ」
突然、わけ知り顔の義継が宥めるように割って入ってきたかと思うと、馴れ馴れしく掌を肩のうえに置いた。
ウチのクラスの女子だったら、卒倒しかねないであろう、極上のスマイルを浮かべて・・・・・。
「俺は巨乳よりも、コンパクトサイズのほうが好みだからさ」
なんちゃってニューハーフには決して通用しない、色男特有のフェロモン撒き散らしながら、義継はキザったらしく言い切った。
それが恐ろしく様になっているから尊敬しちゃう。
・・・・・あれ?
ちょっと待て。
今、明らかに聞き捨てならない単語が含まれていなかったか?
ちょっとだけ、プレイバック。プレイバック。
『俺は巨乳よりも、コンパクトサイズのほうが好みだからさ』
・・・・・・コンパクトサイズ??
「ちょっと!」
不届き者の下心にまみれた手をギュっと抓ってやる。
「っ・・・・・イデデ」
義継の個人的な趣味はどうでも良い。
だいたい、バストサイズがMEGUMI級であろうとなかろうと、それが=(イコール)女性の魅力じゃないからだ。
セックスアピールは胸に限るなんて法律どこにもない。
そりゃあ大は小を兼ねるって言うし、茨の指摘どおりあったほうがお得な感は漂う。
俺だって、正直、彼女には少なくともBサイズくらいのボリュームはあって欲しい・・・・・って、何を口走っているんだ、夏彦。落ち着け!
とにかくっ!【コンパクト】を肯定するデリカシーゼロ発言のほうが問題だろーがっ!
「大きいよ!」とか「グラマラスだよ!」とか、見え透いたフォローを期待してたワケじゃない。
だが、然し!
男たるもの、女性にお世辞のひとつやふたつくらい言ってもバチは当たらないぞ、義継。
ミスターレディの繊細なガラスのハートは、地味に傷ついた。
「ごめん、ごめん〜〜〜」
うっすら赤くなった手の甲を擦りながら苦笑いする義継を横目で睨みつけ「別にいいけどさ」頬を膨らませてみせる。
次回、奇しくもこーいう格好をする事態に陥ったら、ヌーブラくらい装備すべきだろうか。
「まぁまぁ、おさえておさえて・・・・・そんじゃ、ま、席がなくならないうちにとっとといって、とっとと合流しましょうや」
義上は気まずくなった場を和ませるように、二カッと白い歯を見せながら、人懐こそうな顔で笑った。
「そうだね」
忙しなくきょろきょろまわりの様子を窺いながら義達も頷く。
「夏女に悪い虫がつくまえにさっさと迎えにいかなくちゃいけないし・・・・・・」
真剣な面持ちで何やらブツブツと算段している。
友人の独白を盗み聞きしてしまった俺は思わず、ずっこけそうになった。
おまえは俺の親父か?彼氏か!?
色気皆無の小娘よりも百倍、麗しい方々がいらっしゃるのに何を心配しているんだ、さっきから。
「夏女、俺たち以外のヤツと口利いちゃダメだからね! とって喰われちゃう!!」
「お、OK」
鬼気迫る義達の形相に固唾を呑んだ。
この場合、ニュアンスの判断に苦しむ。
「それじゃあまた後でね」
俺はこれ以上ひきとめられないうちに、そそくさとグループから離脱し、受け付け待ちの列に加わった。
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室内に立ち込めた真新しいイグサの匂い、できたばかりの家みたい。
最近リフォームでもしたんだろーか。艶々した畳張りの床にはシミひとつ浮かんでいなかった。
何畳あるんだか目測すらたてられない、サッカーでもできちゃうんじゃないのってくらい、恐ろしく広い客間に通された俺達。
現代利器がおよそ存在しない空間で、照明器具といったらそこかしこに設置されている行灯だけ。
しかも、あれだ。使われているのは安っぽい電球じゃなくて、本物の蝋燭。
うっかりぶつかったりしたら、たちまちファイアーストームができあがるだろう。
燃〜えろよ、燃えろ〜〜よ〜♪・・・・って、洒落にならない。
揺らめくオレンジ色の明かりにぼうっと映し出される妖怪達の影、少しどころかかなり不気味。
宴会というには些か華やかさに欠ける。
中央にスペースを空けて、円を描くようにずらりと角膳が並べられていた。
逆さまになったお猪口とお箸、陶器の皿が、酒と料理が運ばれてくるのを静かに待っている。
座席を確認するのにいちいちコンパスが必要そうだ。
部屋の端から端にいきつくまで、いったいどれくらいの時間を要すのか・・・・・。いよいよ鬼灯と合流できるか不安になってきた。
座る場所をきちんと割り振られたって、纏まりのない彼らのことだ、そのうちフラフラしだすんだろうし、もっと言うと、座席表がなくちゃ意味がない!
映画のチケットだけわたされたって、照らし合わせる対象が必要ってもんでしょ。
おいおい・・・・・三重県から東京なんて俺ひとりじゃ帰れないぞ。どーしよう。
入り口付近で一匹ずつ名前と出身地を訊ね、名簿に記入しながら、「お客様はこちらです」「お客様はそちらです」きびきびと指示を下す姉さんとお兄さん。
様子を見ている限り、どうやら住んでいる場所ごとに大きくエリア分けされているらしい。
このぶんだと、俺の席だけ用意されてませんでした・・・・・とかいう心配もなさそ。
ようは早いモン勝ちの原理。
「夏女は俺達とは席が離れちゃうね」
「前回は名前の順だったのになぁ・・・・・」難しい顔つきで義継が唸った。
そんな、進級したてのクラスじゃあるまいし。
すかさず、義達も「え〜〜〜っ」と、困った風に眉を八の字にして、すっとんきょうな声をあげる。
かと思えば、
「夏女、嘘ついちゃいなよ。大和って言えばいいんだ。」
名案、といわんばかりにポンと手を打ち据え、納得しだした。
可愛い顔をしてあっさりと腹黒い発言をかましましたよ、この子ったら。妖怪って正直が売りなんじゃないの?
俺だって、せっかく知り合った義継達と離れてひとりぼっちになるのは心細いけど、そりゃあまずいでしょー。
なんかしっかり個人情報とってるっぽいし、これいじょう偽証行為を重ねるのはちょっと。
根が小心者の俺としては、いただけない。
「ねぇねぇ、そうしなよぉ・・・・・、夏女ぇ〜〜」
潤んだ瞳で、にじり寄ってくる義達。そんな某消費者金融会社のコマーシャルに出てくるチワワみたいな目でじっと見つめないでってばぁ!
「で、でもほら、とりあえず宴会が開始したら移動すればいいわけだし。少しの間でしょ??それとも席立ったりしちゃまず・・・・・」
「駄目だよ!」
怒ったように義達が眉間に力を篭めて断言する。
「夏女のこと他の奴らが放っておくはずないもん! きっとこっち来れなくなっちゃう」
だっこした茨ごと、ぎゅぅっと抱きしめてくる義達。
ばれちゃう!胸がないのばれちゃう!! 正確に伝えると、茨のほうにわかっちゃうよ!
俺の胸囲にクッション性は皆無。暴れれば暴れるほどエスカレートしていくハグ攻撃になすすべもなく慌てふためく。
どこにこんな力が蓄積されているんだろう・・・・・物凄いパワーだ。
茨、頼むから圧死だけはしないでくれ〜〜!
「コラ!」
コツン、と義達の後頭部を叩く者あり。兄の義上だ。
名前に、こう「義」と同じ漢字が続くもんだから、不思議に思って聞いてみたら、なんと、彼らは全員、血の繋がった兄弟という事実が判明した。
よくもまぁ、お袋さんもこれだけ美形ぞろいの子供を産み落としたもんだね。
ちなみに、真義が長男で、義継が次男、義上が三男で、義達は四男にあたるそうだ。
末弟の義元は興味なさそーに、真義と一緒になって、俺達のやりとりを眺めている。
冷めたお子様のようだ。外見年齢的には、俺よりも二つくらい下だろうか。
「馬鹿、バレたら夏女のせいになるんだぞ」と、お兄さんの威厳をここぞとばかりに発揮する義上。
「その時は俺に命令されて言いましたって、いえばいいじゃん」
ぶぅと、頬をふくらませ、義達が反論する。
義継はといえば、ただただ、苦笑するばかり。仲裁するつもりはなさそう。
「べつに、おまえがその女のところへいけば良い話だろ。さっさといくぞ。」
それまでずっと傍観者を決め込んでいた真義は呆れたように吐き捨てると、指定席の確保に向かう。
気持ちいいくらい俺様キャラだなぁ・・・・・。
「待ってよぅ」足早に兄を追いかけてゆく末っ子。
「ほんっと、真義は勝手なんだから」
「真義って、いつもああつっけんどんなの?」
「うん、そうだよ。いーっつも、ムスッとしちゃってさぁ」
「まぁ、信じられない話、女の子にあまり興味がないっていうか・・・・・苦手みたい。だから、余計に夏女には冷たく見えるかもしれないけど、あれで優しいところもあるんだよ?」
気を悪くさせて、ごめんね。義継は仕方なさそうに笑った。
「・・・・・お、私は平気だから、気にしないで」
そりゃあちょっとくらいはガーンとくるけど、態度がつれないくらい、べつにどうってことない。
いきなり湯槽に引きずり込んだり、暗闇から襲い掛かってきたりしないだけ、マシ。
「私、やっぱり、ちゃんと自分の席にいくよ。後でそっちお邪魔させて」
鬼灯と落ち合ってからなら問題なし!
「えぇ〜〜〜!」
「あんまり遅かったら義達が迎えにきてよ」
「うん」
渋々頷く義達のしょげた肩を、元気づけるようにポンポン叩く。
「あ・・・・」
俺はずっと後生大事に抱えていた腕の中の茨を見下ろす。
「茨はどっからきたの??」
「摂津国だよ」
茨はクスリと小さく笑った。
えーと・・・・セッツ国って、何県??むしろ、日本??

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最近リフォームでもしたんだろーか。艶々した畳張りの床にはシミひとつ浮かんでいなかった。
何畳あるんだか目測すらたてられない、サッカーでもできちゃうんじゃないのってくらい、恐ろしく広い客間に通された俺達。
現代利器がおよそ存在しない空間で、照明器具といったらそこかしこに設置されている行灯だけ。
しかも、あれだ。使われているのは安っぽい電球じゃなくて、本物の蝋燭。
うっかりぶつかったりしたら、たちまちファイアーストームができあがるだろう。
燃〜えろよ、燃えろ〜〜よ〜♪・・・・って、洒落にならない。
揺らめくオレンジ色の明かりにぼうっと映し出される妖怪達の影、少しどころかかなり不気味。
宴会というには些か華やかさに欠ける。
中央にスペースを空けて、円を描くようにずらりと角膳が並べられていた。
逆さまになったお猪口とお箸、陶器の皿が、酒と料理が運ばれてくるのを静かに待っている。
座席を確認するのにいちいちコンパスが必要そうだ。
部屋の端から端にいきつくまで、いったいどれくらいの時間を要すのか・・・・・。いよいよ鬼灯と合流できるか不安になってきた。
座る場所をきちんと割り振られたって、纏まりのない彼らのことだ、そのうちフラフラしだすんだろうし、もっと言うと、座席表がなくちゃ意味がない!
映画のチケットだけわたされたって、照らし合わせる対象が必要ってもんでしょ。
おいおい・・・・・三重県から東京なんて俺ひとりじゃ帰れないぞ。どーしよう。
入り口付近で一匹ずつ名前と出身地を訊ね、名簿に記入しながら、「お客様はこちらです」「お客様はそちらです」きびきびと指示を下す姉さんとお兄さん。
様子を見ている限り、どうやら住んでいる場所ごとに大きくエリア分けされているらしい。
このぶんだと、俺の席だけ用意されてませんでした・・・・・とかいう心配もなさそ。
ようは早いモン勝ちの原理。
「夏女は俺達とは席が離れちゃうね」
「前回は名前の順だったのになぁ・・・・・」難しい顔つきで義継が唸った。
そんな、進級したてのクラスじゃあるまいし。
すかさず、義達も「え〜〜〜っ」と、困った風に眉を八の字にして、すっとんきょうな声をあげる。
かと思えば、
「夏女、嘘ついちゃいなよ。大和って言えばいいんだ。」
名案、といわんばかりにポンと手を打ち据え、納得しだした。
可愛い顔をしてあっさりと腹黒い発言をかましましたよ、この子ったら。妖怪って正直が売りなんじゃないの?
俺だって、せっかく知り合った義継達と離れてひとりぼっちになるのは心細いけど、そりゃあまずいでしょー。
なんかしっかり個人情報とってるっぽいし、これいじょう偽証行為を重ねるのはちょっと。
根が小心者の俺としては、いただけない。
「ねぇねぇ、そうしなよぉ・・・・・、夏女ぇ〜〜」
潤んだ瞳で、にじり寄ってくる義達。そんな某消費者金融会社のコマーシャルに出てくるチワワみたいな目でじっと見つめないでってばぁ!
「で、でもほら、とりあえず宴会が開始したら移動すればいいわけだし。少しの間でしょ??それとも席立ったりしちゃまず・・・・・」
「駄目だよ!」
怒ったように義達が眉間に力を篭めて断言する。
「夏女のこと他の奴らが放っておくはずないもん! きっとこっち来れなくなっちゃう」
だっこした茨ごと、ぎゅぅっと抱きしめてくる義達。
ばれちゃう!胸がないのばれちゃう!! 正確に伝えると、茨のほうにわかっちゃうよ!
俺の胸囲にクッション性は皆無。暴れれば暴れるほどエスカレートしていくハグ攻撃になすすべもなく慌てふためく。
どこにこんな力が蓄積されているんだろう・・・・・物凄いパワーだ。
茨、頼むから圧死だけはしないでくれ〜〜!
「コラ!」
コツン、と義達の後頭部を叩く者あり。兄の義上だ。
名前に、こう「義」と同じ漢字が続くもんだから、不思議に思って聞いてみたら、なんと、彼らは全員、血の繋がった兄弟という事実が判明した。
よくもまぁ、お袋さんもこれだけ美形ぞろいの子供を産み落としたもんだね。
ちなみに、真義が長男で、義継が次男、義上が三男で、義達は四男にあたるそうだ。
末弟の義元は興味なさそーに、真義と一緒になって、俺達のやりとりを眺めている。
冷めたお子様のようだ。外見年齢的には、俺よりも二つくらい下だろうか。
「馬鹿、バレたら夏女のせいになるんだぞ」と、お兄さんの威厳をここぞとばかりに発揮する義上。
「その時は俺に命令されて言いましたって、いえばいいじゃん」
ぶぅと、頬をふくらませ、義達が反論する。
義継はといえば、ただただ、苦笑するばかり。仲裁するつもりはなさそう。
「べつに、おまえがその女のところへいけば良い話だろ。さっさといくぞ。」
それまでずっと傍観者を決め込んでいた真義は呆れたように吐き捨てると、指定席の確保に向かう。
気持ちいいくらい俺様キャラだなぁ・・・・・。
「待ってよぅ」足早に兄を追いかけてゆく末っ子。
「ほんっと、真義は勝手なんだから」
「真義って、いつもああつっけんどんなの?」
「うん、そうだよ。いーっつも、ムスッとしちゃってさぁ」
「まぁ、信じられない話、女の子にあまり興味がないっていうか・・・・・苦手みたい。だから、余計に夏女には冷たく見えるかもしれないけど、あれで優しいところもあるんだよ?」
気を悪くさせて、ごめんね。義継は仕方なさそうに笑った。
「・・・・・お、私は平気だから、気にしないで」
そりゃあちょっとくらいはガーンとくるけど、態度がつれないくらい、べつにどうってことない。
いきなり湯槽に引きずり込んだり、暗闇から襲い掛かってきたりしないだけ、マシ。
「私、やっぱり、ちゃんと自分の席にいくよ。後でそっちお邪魔させて」
鬼灯と落ち合ってからなら問題なし!
「えぇ〜〜〜!」
「あんまり遅かったら義達が迎えにきてよ」
「うん」
渋々頷く義達のしょげた肩を、元気づけるようにポンポン叩く。
「あ・・・・」
俺はずっと後生大事に抱えていた腕の中の茨を見下ろす。
「茨はどっからきたの??」
「摂津国だよ」
茨はクスリと小さく笑った。
えーと・・・・セッツ国って、何県??むしろ、日本??
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